私も読んでツイートしましたが、
のニュースが話題になっています。
上から目線な印象のタイトルや経団連の発言のためか、「何様だ」「自分で育てろ」というご意見が大勢を占めているようです。お気持ちはごもっともなのですが、企業自分で育てたくても「できなくなってきている状況」がこのニュースに繋がっているのではと思い、駄文を書くことにしました。お付き合い頂ければ幸いです。
今、世の中で起こっていること
_
現在、雇用の流動性が上昇していくトレンドの中、若年層の離職も増加しています。
もし私が今、20 代の若者だとしたら、以下のようなプランでキャリアを考えるかもしれません。
- 長期雇用を前提とする日本型企業で教育を受ける
- 成果主義の企業に転職し年収を上げる
2. を実行に移すのは、以下のようなタイミングが目安でしょうか。
- 教育が終わるまで(2 〜 3 年程度)
- 最初の実績を出すまで(4 〜 5 年程度)
今後、更に若年層の離職率が 5 割、7 割と高まり、若年層大量離職時代となった時、企業はどうするべきでしょうか。
これから起こる(かもしれない)こと
_
広く知られている通り、新卒 1 〜 2 年目の社員に支払う給与は先行投資の面が強く、これは長期的に回収する見込みでそのようになっていますが、前章の 1. の企業は完全に育て損になるため、教育/職業訓練が成り立たなくなり、定期(新卒)採用を細らせて、キャリア採用を厚くするようになります。
そのような企業が今後増えていくと、新卒採用の入り口がどんどん狭まっていき、最終的に日本の雇用はアメリカのようなキャリア採用型を主流とする企業が増えていきます。
「だからすぐに辞めるのはやめようね」という話がしたいわけではありません。人材の流動性の高まりは時代の要請であり、この潮流に逆らうことは難しいでしょう。
ここでのポイントは、そのような時代の中、企業で人員を教育するという仕組みそれ自体が適用不能になってきているということです。
これまで大学に期待されていたこと
_
冒頭のニュースに戻ります。企業と大学(及び工業高校や高専など、ここでは大学を主体とします)は、「需要」と「供給」の関係であり、大学にとって企業は「お客様」にあたります。だからこそ、経団連からは冒頭のニュースのような強めの発言が出てくるのでしょう。
これまで大学の役割は、卒業生の「素養がある」ことを保証することでした。「この人は成績が優秀なので、きっと御社に貢献する人材になります」と言うことでした。それは、職業訓練を入社後に企業自身が行う前提だからこそ成り立っていたシステムです。
これからの大学に期待されること
_
これ以上は蛇足になりますが、上記のように終身雇用制度、ならびに入社後の職業訓練という制度自体が破綻してしまうと、いくら「素養」を保証されても、「今現在」戦力にならなくては、若年層大量離職時代では会社に貢献してもらえる保証がありません。自社で育てた人材を競合他社に輩出するマシーンになんて誰もなりたくありません。
そのため、大学に「こういう時代になったから、もう即戦力の人しか採れないよ。よろしくね」と言っているのです。
ですから、私にとって上記の経団連の記事はごく自然な印象を受けました。もちろん、入社後幾年間の離職を妨げる法律などで回避するなどで新卒採用を維持する手段もありますが、そんな手段は誰も望んでいませんよね。
終身雇用は「悪」なのか?
_
ここからは少し趣旨から外れてしまいますが、昨今のビジネス界隈では「終身雇用は時代遅れ」という潮流ですが、かのドラッカー先生は「年功序列」は悪だが、「終身雇用」は残すべき、と仰っていました。
- P.58 : 年功序列制はもはや障害
- P.59 : 終身雇用制は残すべき
または、ドラッカーの遺言
- の P.88 ~ P.89 も上記と同じ内容です
終身雇用自体は善でも悪でもなく、特定の強みを持つ雇用スタイルです。
長期(終身)雇用を保証することで、雇用主と労働者お互いが安心して事業に従事可能なことを背景とした、長期間のコミットを武器とする事業推進の形態です。実際、その強みによる長期間の研鑽によりプレゼンスを確立した企業も数多く(とりわけ化学系など)あります。
一方で、ドッグイヤーで新たな物が生み出され、また衰退していく IT 業界では、その強みは馴染みませんでした。こちらでは絶え間ない人員の流動性こそが強みとなり、人材視点で考えると、次々と持ち技をアップデートできる人が重宝されます。
しかし、上記はあくまで IT 業界の話であり、長期の雇用保障による長年の研鑽が強みとなる業界はあるはずで、現在雇用の流動化がトレンド化している状況が全ての業種にメリットがあるわけではないことは、きちんと考慮する必要があります。
何より、労働者自身は流動的な労働市場を望んでいるのでしょうか?「流動的な市場が苦手なら、こっちの業界ならじっくりやれるよ」というオプションがもし選べたら、今現在学校教育で将来のために勉強している皆様にとっても幸せなのではないかな、と思います。
本日の内容は以上です。
ご精読いただき、ありがとうございます